e-Discoveryについての連邦民事規則(FRCP)改正の概要

本Entryは法務系 Advent Calendar 2015 – Adventarに参加しています。すみません! 2日遅れの遅刻です。

なお、実は2年前にBlogを設置しようかなと思ってドメインを取得していたのですが、なんやかんやでそのままになっていました。

 

Discoveryは、アメリカ民事訴訟における証拠開示手続で、日本の民事訴訟でいえば文書提出命令と証拠保全をあわせて、うんと強力にしたような手続です。デジタルデータ(Electric Stored Information : ESIと呼びます)を対象にすると、e-Discoveryとなります。

e-Discoveryのルールを定めているのが、FRCP(Federal Rule of Civil Procedure:連邦民事規則)ですが、今年に改正され、12月1日付で施行されています。このFRCP改正の日本語情報がほとんどありません(しかも検索すると2006年改正の情報が出てきてややこしい。10月に、一弁総法研の20周年セミナーのパネリストをやった際に、施行直前で改正を無視するわけにもいかず、結構苦労したのです。)。カタリスト社のBlog「政府のeディスカバリに関する新規則の制定が実現に向けて一歩前進」は、改正の概要にふれていますが、これは成案が確定する前の情報です。

私は米国弁護士資格も持っていませんが、改正の表面的な解説がネット上にあってもよかろうとおもいまして。なお、当然ながら米国法のアドバイスを提供することはできませんので、あまり信用しないでください。

 

改正の全体像については、Just Follow the Rules! FRCP amendments could be e-discovery game changerの後ろの方の表を見るとよいのではないかと思いますが、その中で開示義務の範囲と制裁のルールについて触れます。

I.  開示義務の範囲

まず一番大きなポイントが、26条で開示義務の範囲が変わったことです。

1   条文

改正前の26条(b)(1)の日本語訳はこうでした(英語の条文と条文を作った最高裁アドバイザリー・コミッティ―のコメントはこちら)。

 (1)原則的な範囲
裁判所の命令により制限されない限り、ディスカバリの開示の範囲は以下の通りである:
当事者は、秘匿特権の及ばない全ての事項について、いずれかの当事者の請求又は抗弁に関連する限り、ディスカバリによる開示を受けることができる。――あらゆる文書その他の有体物について、その存在、種類、性質、保管、状態及び所在場所に及び、開示し得る事項を知っている者の特定及び所在を含む。相当の理由があれば、裁判所は、訴訟における主な事項に関連するいかなる事項についてもディスカバリを命じることができる。ディスカバリによって許容可能(admissible)な証拠に至る合理的な見込みがあればよく、(ディスカバリの対象となる)関連性のある情報が公判において許容可能である必要はない。全てのディスカバリは26条(b)(2)(C)の制限に従う。

 

改正後はこうなりました。

(1)原則的な範囲
裁判所の命令により制限されない限り、ディスカバリの開示の範囲は以下の通りである:
当事者は、秘匿特権の及ばない全ての事項について、いずれかの当事者の請求又は抗弁に関連し、かつ、問題となる争点の重要性、請求金額、当事者の関連する情報への相対的なアクセスの程度、当事者が利用できる資源、争点解決のための重要性、提案されたディスカバリの負担及び費用がその潜在的利益を上回るかどうかを考慮して、事件における必要性が比例する限度において、ディスカバリによる開示を受けることができる。

結構変わってますね。

2   何が変わったか

もともとの開示義務の範囲は、条文がごちゃごちゃしていて分かりづらいですが、整理すると、

①関連性があるものは原則開示の対象
②秘匿特権等の例外・制限がある(開示除外事由)

というものでした。

図示するとこんな感じです。

開示義務の範囲の概要(改正前)

開示義務の範囲の概要(改正前)

改正後は、①が変わって、「関連性があって、かつ、色々な事情を考慮したうえで比例原則を満たせば原則として開示対象」ということになりました。

ただ、この比例原則の規定がどこからきたかというと、もとは改正前の26条(b)(2)(c)(iii)に以下の規定があったのです。

(C)請求があった場合
申立て又はその請求自体に基づき、裁判所は、以下の場合には、本規則又地方の規則により認められるディスカバリの回数又は範囲を制限しなければならない:
……
(iii)事件における必要性、請求金額、当事者の利用できる資源、問題となる争点の重要性、争点解決のための重要性を考慮して、提案されたディスカバリの負担及び費用がその潜在的利益を上回る場合

つまり、細かな文言の違いはありますが(例えば、考慮要素の違いや並びの順番、proportionalという文言の有無など)、比例原則の位置付けを②から①に移したのが、今回の26条の改正だ、ということになります。(さらに遡ると、1983年のFRCP制定時には、26条(b)(1)に比例原則の言及があり、1993年改正で26条(b)(2)(C)(iii)に移っているので、そういう歴史からすると、比例原則が元の位置に復帰した、ということなのだそうです。)

なお、改正前に比例原則を規定していた26条(b)(2)(C)(iii)には、改正後は、「提案されたディスカバリが26条(b)(1)の範囲を超える場合」という実質的には意味のない規定に置き換えられました。

3   影響は?

FRPC改正の施行は2015年12月1日ですから、改正によってどの程度の影響が生じるかは、現時点では何ともいえないところです。アメリカの弁護士も、分からんと言うのではないでしょうかね。机上の空論として、以下、若干考えてみましょう。

前掲の裁判官のインタビュー記事(ネットで適当に検索したもので、権威のある情報というわけではありません。本来、しかるべき文献をあたるべきかもしれません。でも裁判官なので、まぁ、信用してもいいかなー、というくらいです。)で、以下のような言及がありました。

比例原則は、新しいコンセプトではありません。実際、昔から、連邦規則の一部は比例原則に言及していました。現行法の規定では、ディスカバリの範囲を(例えば保護命令によって)制限する裁判所の権限を定めた26条で、比例原則が言及されています。関連性のある情報であっても、費用が便益を上回る場合は、ディスカバリが制限されることがあるというのは、昔からのことです。……
比例原則は、今やディスカバリの範囲の定義の中心に位置しています。これは重大です。

(比例原則が強調されると、原告にとって厳しすぎる事態を招きませんか?)そんなことにはならないと思いますよ。どうなるか注目しましょう。比例原則はずっと連邦規則の一部でしたが、ディスカバリが抑制されるようなことはありませんでした。

このように、比例原則は前からあって、今回の改正はそれを前面に押し出したというだけのことです。そうすると、理屈としては、開示義務の範囲は異ならないということになりそうです。もっとも、弁護士等の関係者の意識が変わり、比例原則の主張が盛んになされるようになる、という間接的な影響はあるのかもしれません。

実は、比例原則以外にもう一点、ディスカバリの範囲に影響する改正があります。それは、「ディスカバリによって許容可能(admissible)な証拠に至る合理的な見込みがあればよく、(ディスカバリの対象となる)関連性のある情報が公判において許容可能である必要はない。」という規定が削除されたことです。同じ記事から引用します。

長い間、「許容可能な証拠に至る合理的な見込みがある」という文言は、多くの人、裁判官にとっても、ディスカバリの定義とみなされてきました。この文言は、今や削除されました。したがって、ディスカバリの範囲は、「当事者の主張や防御と関連し、かつ、事件の必要性との関係で比例原則の範囲内にある」情報ということになります。これは非常に重要(significant)な変更です。既に何度か言っていますが、私の意見では、今回の修正条項は、1938年の連邦規則の制定以降、最も重要な改正です。私の意見が正しいか、間違っているのか、時間がたてば分かるでしょう。

そうすると、ディスカバリの範囲が狭くなるのかもしれません。

しかし、いずれにしても、日本企業が気にするような大した違いはないと考えるべきでしょう(これは私見です。)。おおまかにいって(以下、数字は適当です。)、アメリカの現状が100で、日本の証拠開示制度は10くらいが現状とすると、今回の改正は現状が行き過ぎ(弊害が大きくなってきた)ので、比例原則を強調して、100を90か80に戻そうという話です。10から見たら、100だろうと80だろうと自分らのところよりも随分厳しいことには変わりありません。また、充実した証拠開示が正義の実現のためには不可欠だというコモン・ローの基本精神が、改正によって揺らぐこともないでしょう。

II. 情報保全義務と制裁

1   従来の分かりにくい制裁ルール

e-Discoveryでは、しばしば保全義務違反=証拠隠滅(spoliation)が問題となり、厳しい制裁の対象となりますが、そのルールはやや分かりにくいところがありました。

FRCP37条(b)(2)(A)は、裁判所の命令に従わなかった場合の制裁の種類を規定していますが、証拠隠滅はカバーされていません(裁判所の命令違反ではないため)。証拠隠滅に対する制裁は、裁判所の固有権(inherent power)によるものとされています。また、PRCP37条(e)は、ESIの喪失について、以下の通り規定していました。

例外事由に該当しない限り、裁判所は、通常の(routine)、善意(good faith)で電子情報システムを運用した結果としてESIが消失したことについて、本規則に基づく制裁を当事者に課さないことができる。

これは、セーフハーバー規定と呼ばれるもので、裁判所が制裁を課さない場合を明らかにしたものです(ただし、裁判所が制裁を課す権限は留保されているようにも読めます。)。

このように、証拠隠滅に対する制裁の根拠は裁判所の固有権であり、それをFRCPのセーフハーバー規定が制限するという形を取っていたため、FRCPを見てもルールの全体が分からなかったのです。

2   改正規則の条文

改正規則では、従前はセーフハーバー規定を定めていた37条(e)が、制裁の根拠を積極的に定める規定とされています。(英文はこちら

(e)ESIの保全の失敗
訴訟が予期され又は提起されたことにより保全されるべきESIが、当事者が保全のための合理的な方法を取らなかったことにより失われた、かつ、その後のディスカバリによりそのESIが復元又は復活できなかった場合、裁判所は:
(1)情報の喪失により相手方当事者が不利益を被った場合、その不利益を回復するために必要な限度を超えない手段を命令する;又は
(2)当事者が故意により相手方当事者の情報の利用を妨げたと認定した場合のみにおいて:
(A)喪失した情報は当事者に不利であると推定する;
(B)陪審に対し、情報が当事者に不利であったと推定することができる、若しくは、推定しなければならないと説示する;又は
(C)訴訟を却下し、若しくは、懈怠判決を下す。

3   影響

改正規則では「故意」(intent)の有無により、制裁が大きく変わってきます。

故意がない場合は、「利益を回復するために必要な限度を超えない手段」のみが制裁として課されます。故意があると、「不利な推定の説示」など、極めて厳しい制裁が用意されています。

このように整理されたルールが実務にどのような影響を与えそうか、若干整理してみましょう。

(1) 故意の場合の厳格な制裁

改正前から、故意がある証拠隠滅(spoliation)については、厳しい制裁が課されていたようです。例えば、武田薬品の事件では、故意の証拠隠滅を理由に不利な推定の説示等の厳しい制裁が適用され、結果として約60億ドル、実損害の5400倍という莫大な懲罰的損害賠償を認める評決(裁判官により2700万ドル、実損害の25倍まで減額)に繋がっています。

故意の場合については、従前の実務の大勢に沿ったルールが明確化されたということであり、大きな影響はないのではないかと思われます。故意かどうか(裏返すとgood-faithかどうか)ということは、従来から焦点でしたからね。

(2) 合理的な方法

他方、故意がないESIの喪失の場合は、保全手続において「合理的な方法」(reasonable steps to preserve)がなされたかどうかが、制裁の有無を決する重要な基準となります。これは、従前のセーフハーバー規定の”routine, good-faith operation”という基準を、より一般的な文言で置き換えたものと言えそうです。

この「合理的な方法」は、委員会のコメントを見る限り、全ての情報を漏らさない完全な方法である必要はなく、合理性を基準に判断されるという程度の意味のようです。なお、委員会は、合理性の判断の一要素として、比例原則が考慮されるとコメントしています。

合理性を判断するにあたって、その時点で一般的なデジタル・フォレンジックス的な手法も考慮されるでしょう。近時、古典的なデジタル・フォレンジックスが主にデータ量の問題から限界に達しつつあると指摘され、ライブ・フォレンジックス、ネットワーク・フォレンジックスといった研究・開発が進んでいるようですが、合理性という判断基準が明らかになったことは、このような動向にプラスの影響をもたらすのかもしれません。

また、委員会は、「代理人は、この問題(どのような手段が合理的かという問題)を解決するためには、依頼者の情報システムとデジタルデータに馴染んでいなければならない。」ともコメントしており、今後の弁護士実務のあるべき姿が示唆されているように思われます。

(3) 故意がない場合の制裁の選択

故意がない場合には、「利益を回復するために必要な限度を超えない手段」が制裁として課されます。従前の固有権に基づく制裁は裁判所の裁量が非常に広かったといえますが、裁判例の動向を踏まえて、合理的な基準を設けたものと言えそうです。もっとも、委員会のコメントは、失われた情報でどのような不利益が生じたのかを確定するのは困難であると指摘していますし、手段の選択は裁判所の裁量に委ねられるとしています。”Much is entrusted to the court’s discretion.”

なお、このような制裁の具体例として、委員会コメントは、証拠提出の排除、情報喪失についての証拠提出や陪審に対する主張を許すこと、陪審への説示を挙げています。ただ、故意の場合の制裁と同じ効果を有するような手段は許されないことは、強調されています。

(4) 保全義務の発生時期

保全義務の発生時期について、FRCP上の明文はなく、例えば、リーディングケースとされているZubulake v. UBS Warburg, 220 F.R.D. 212 (S.D.N.Y. 2003)は「当事者が訴訟を合理的に予測した(reasonably anticipates litigation)場合、その当事者は、通常の文書の保持/破棄のポリシーを一時停止して、関連性のある文書が保全されることを保障するために『訴訟ホールド』を実施しなければならない」と判示しています。

改正規則に、”anticipation  or conduct of litigation”という文言が入っており、まぁ、従来と違いはないですけれど、はっきりしたことは良いことではないかと思います。

III.  宣伝・文献

e-Discoveryの概要について、ざくっと解説した文献として、手前みそながら高橋郁夫ほか『デジタル証拠の法律実務Q&A』(2015、日本加除出版)350頁(Q52)があります。アメリカ法の予備知識がない状態で全体像が理解できるように工夫して書きましたので、是非ご参照ください。その他文献としては、以下をご参照ください。

 

また、前述のセミナーについては、来年、清文社からこれを基にした書籍が出版される見込みです(これから書かないといけない。)。その際は、よろしくお願いいたします。

Blog始めました。

ここ1年ほど、TwitterやFacebookをいじってみて、これはこれで良いのですが、まとまった形で情報を置いておく場があった方が便利だと思うに至りました。

とはいえ、「Blogやります!」という感じではなく、ぼちぼちと書いていくという程度で、当面は考えております。
とりあえず考えている分野は、「カテゴリー」に書いておきましたが、中身が揃うのはずっと後になるでしょう。

よろしくお願いいたします。